富山大学附属図書館で発見されたラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の熊本時代の『講義ノート』出版の準備が、現在、本学客員研究員のマリ・クリスティーヌ氏らによって進められています。今回はこの間の経緯を紹介したいと思います。
2012年4月の『北日本新聞』や『熊本日日新聞』でも紹介されていますが、本年(2012年)、富山大学附属図書館に寄贈された資料の中からラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の熊本第五高等中学校時代の授業の講義録が発見されました。ハーンは『怪談』などの著作のある文学者として知られていますが、同時に優れた英語教師でもありました。英語教師として各地に赴いたハーンを知る上で、熊本での授業に関する史料がこれまで唯一見つかっていなかったのですが、この発見は熊本時代の欠落を埋める第一級の史料として研究者の注目を集めているところです。
この資料はハーン関係の著作の出版もあり、ハーンの蔵書(後のヘルン文庫)の東京から富山への移送に当たっても多大な尽力のあった北星堂書店の遺品の中から偶然にも発見されたものです。当時熊本五高生であった友枝高彦(1876-1957、後の東京文理科大学教授)が筆記したハーンの英語授業のノートを、友枝がヘルン文庫に来訪したことをきっかけに富山高校教授の高田力が写し、それを北星堂の中土義敬が将来の出版を意図して筆写しておいたという経緯をたどるもので、まさに奇跡的な偶然によって残された資料といえるでしょう。
この資料には、ハーンが日本人に英語を教えるに当たっての深い工夫の跡が残されているそうです。当時の英語の授業は、あらかじめ西洋のものをテキストとして定め、その内容に解説を加えるといった授業が多かったといいますが、ハーンの授業では英語そのものの用法や語源に焦点を当てるとともに、それを日本人学生の側に引き寄せ、熊本や九州に関する「阿蘇」「水前寺」「白川」「大宰府」「筑後川」「霧島」といった素材を授業に取り上げているとのことです。
なお、この資料はマリ・クリスティーヌ氏が翻訳し、出版される予定です。ハーン研究者のほか、内外で英語教育に携わる人の関心も広く呼ぶ資料になるものと思われます。また、12月15日(土)には、富山大学において講演とシンポジウム「小泉八雲の新しい地平 : 最近のラフカディオ・ハーン研究をめぐって」が開催されますので、ぜひご参加ください。
参考文献
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